ザ・コーブ 感想

ニコニコ生放送で「ザ・コーブ」を見ることができたので一応感想的なことを書いてみよう。
あまり長くなるとアレなので適当に省略しながら…(といいつつ長くなりそうだが)


とりあえず日本で公開するに当たってテロップによる解説(言い訳?)
がかなり追加されているようだったのでパールハーバーよろしく
日本人には見せられないようなシーンがカットされてる可能性があるよのね。
そのあたりに関してはあきらめるしかないので海外でオリジナル版見た人
と意見が食い違っても勘弁してほしい。


まずドキュメンタリー映画としての出来だが、割と良く出来ていると思う。
腐ってもアカデミー賞受賞作品。監督がつまり何を言いたいのかが
非常に良くわかるつくりになっています。良くも悪くも。


結局向こうの考え、思想をわかり易く伝えられれば伝えられるほど
普通の日本人ならば嫌悪感を抱くのではないだろうか。
環境保護に対する考え方は日本人でも人それぞれなので差はあるだろうが
論理的に物事を考えることが出来る人ならば彼らの思想が
単なる感情論の押し売りであり、なんら説得力を持たないということにはすぐに気づく。
ドキュメントとして出来が良いだけに余計に。




次に問題になった盗撮等の問題だが、実際には盗撮以外にも犯罪行為と思われる行動を
劇中で多数とっており、自らその手順を説明してみせていた。


・立ち入り禁止区域への侵入
本人たちは「連中は後ろめたいことを隠すために一般人を遠ざけている」というが
指差す看板には「危険!落石注意」の文字。
この落石注意の看板は劇中4回ほど登場する。よほど気に入ったのだろう。(動向してた通訳さん教えてやれよw)
ちなみに現場は切り立った崖に囲まれた場所なので普通は立ち入り禁止です。
漁港に詳しい人なら知ってると思うけど漁業メインの港にはフェンスも防波堤も無い桟橋などが多々あるので
漁業関係者以外立ち入り禁止になっていることが多い。(それを一番守ってないのは地元の釣り人なのだが)


・輸出禁止品である軍用サーモカメラ
A「夜中にこっそり撮影する必要があるから強力な暗視カメラが必要だな」
B「輸出禁止されてる軍用サーモカメラを持ち込んでやったぜ、HAHAHA!」
など等…



とりあえず本人たちはこの悪事を暴くためにやむなく違法行為をも行ったというつもりなのだが
現状日本の法律(恐らく世界中のほとんどの国でも)ではイルカを殺すことは何ら違法ではないし、
ましてや白人がよくやるスポーツハンティングでもない。
食うためであり、商業のためなのだ。


基本的に彼らはイルカのような可愛くて賢い生物は人間の管理下に置くべきではないという考え方をしている。
そして、序盤、視聴者の同意を得るために水族館でショーのために飼われているイルカがストレス下にあるという
解説映像がはいる。その後に和歌山での漁を紹介するのだ。
つまりこの時点で彼らは食うための漁(あるいは商売としての漁)とエンターテイメントとして利用されるイルカの調達
を同次元のこととして扱っている(実際同じ入り江でショー用のイルカと食用のイルカが捕らえられるようだが)


日本人にとって生き物を食うことと遊び道具にすることには大きな認識の差がある。
恐らく大半の人はこの時点で監督らの思想を理解するのは無理だと悟るだろう。




まとめると
・監督をはじめとしたスタッフの動機は彼らの非常に主観的、個人的な思い出や心情であり、
 イルカ漁をやめさせるに足る十分な理由としては不十分である


・編集が非常に恣意的であることも欠点の一つとして挙げられる。
 視聴者へわかり易く伝えるという意味では大変すぐれているが出演者のインタビュー等、
 とても公平とは言いがたい偏りが存在する。
 また、最後のシーンでは水産庁の職員が各国代表に漁の正当性を訴える国際会議場に
 イルカ漁の現場映像を流すTVを持ち込んで場を騒然とさせるというシーンがあるが
 個人的見解としては無関係な映像を編集で繋ぎ、あたかも国際会議に殴りこみをかけたように見せかけていると思われる。
 (実際にそんなことをすれば大問題になるし、水産庁職員と監督が同じフレームに写らない、部屋の雰囲気が違う等不自然な点が多い)


・結局のところ、日本人はおろか論理的な思考が可能な人間ならばこの映画をみて
 彼らの活動がどんなものかを理解することができても、それに同調するような人はほとんど居ないだろう。
 ただでさえあまり儲けにならないドキュメンタリー映画な上にこのような内容では
 ほとんどの映画館が上映しないのもうなづける。思想的なものがあろうと無かろうと赤字になるような
 コンテンツを採用するわけにはいかないわけだ。(無論過激な団体からの抗議行動もあったと想像するが)



*最後に

個人的にもっとも残念だったのはニコニコ動画でこの映画を見ている人々の反応である。
クライマックスの入り江が血で染まるシーンがあまりにも不自然に見えたため、
「これはCGだ」「注)CGです」などの書き込みが目立った。
実際にそのシーンがCGなのかどうかはメイキングでも見なければわからないが、
自分の見慣れないものは全て作り物のフェイクであると見なす短絡的な思考には若干の危機感を覚える。
更に言えばCGかどうかなどは今回の問題の本質ではない。
映画という媒体で見ている時点でそれは一種の作り物であり、製作者の信頼が失われた時点で全て偽者になりうる。
フォトショップエイジにおいて映像というものは何かの決定的証拠にはなりえないと思う。
(個人的には1M近くもある動物を殺せば相当な量の血が出るわけだし、イルカを100匹単位で殺せば
 あれぐらい真っ赤に染まっても不自然ではないのかとも思う。)


ざっとまとめたらこんな感じになりましたw
細かい突っ込みどころは多いのですが、きりが無いのでこの辺で。